灰原とう 『イメイザーの美術』 (ガガガ文庫)

イメイザーの美術 (ガガガ文庫)

イメイザーの美術 (ガガガ文庫)

このお医者さんは、いつも思うのです。
子どもたちが大人になり、サンタという存在がうそであることに気づいたとしても、当時の大人たちがどれくらい真剣にうそをついていてくれたかということは、きっと忘れられない大事な何かになるのだと。

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「子ども」だけが持てる無垢・奔放さ・創造性といった概念*1をモチーフに描かれる大人向けの物語.ライトノベルではあまり見られないテーマだと思うのだけど,これが新鮮かつしっくり来て面白かった.大人とは相容れない,子どもだけが持つ世界観と,子どもらしさに伴う危うさ・脆さがきちんとあわせて描かれており隙は無い.第三話の砂夜もそうだけど,このへんは少女作家こと桜庭一樹に通ずるものがある.冒頭から登場するひねたマセガキ・真深が可愛い,と思ったら中盤からほぼ出番が無くなってしまったのが残念.
欠点も.「子どもの創り出した異世界」とはそもそもどういうものなのか,中で何が起こっているのかがわかりにくいなど,世界観の説明が不足気味で分かりにくい.続編が出ることが前提なのか,思わせぶりな第二話と前後の話の繋がりが不明瞭なのも気になった.このへんはまあ意図的に伏せたんだろうけど読んでて情景が想像しにくい描写は多かった.
全体的に見ればかなり荒削りだったけど,ぜひ続きを読んでみたいと思えるようなわくわくできる一冊だった.楽しかった.

*1:これにぴったり当てはまる単語があったような気がするんだけど,思い出せない……