伊藤螺子 『オクターバー・ガール 螺旋の塔に導くものは』 (徳間文庫)

オクターバー・ガール 螺旋の塔に導くものは (徳間文庫)

オクターバー・ガール 螺旋の塔に導くものは (徳間文庫)

「誰かが魂を込めた素敵な曲を聴いて、コオロギちゃんの中になにかが残ったんだとしたら、そのなにかはもうコオロギちゃんの一部なの。音楽がそうさせるんじゃないわ、コオロギちゃんが自分で音楽を取り込むの。どこにも行けないなんて言っちゃダメよぉ。音楽は居場所じゃなくて、居場所に連れていってくれる車なんだから」
「……!」
「心をわしづかみにされても、ぜんっぜんピンとこなくっても、その衝撃を決めるのは音楽じゃなくってコオロギちゃん自身でしょ? アナタにハンドルを動かす気さえあれば、音楽はいろんなところに運んでくれるわ。夜毎の幻がアタシをここまで導いたようにね。それは決して、否定しちゃいけないことよ」

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コオロギこと興梠真尋は,音楽の中にある世界を視ることができる“特異体質”の持ち主.悪友ショーキチに連れられて行ったライブハウスで,コオロギはシズハライサナという同級生の歌を聴く.シズハライサナの歌の世界には高い塔があり,そこにはイサナと名乗るシズハライサナそっくりの少女がいた.
第 9 回トクマ・ノベルズEdge新人賞受賞の,幻想的な青春小説.同級生の秕奈と音楽の世界にいるイサナ,二人の少女の関係.「音楽の中の世界」というアイデアは目新しいものではないと思うのだけど,みずみずしく描いている.洋楽やフェスの楽しさを語る登場人物たちもすごく生き生きしており,ジュヴナイルとして非常によくできている.どことなくジブリアニメのような雰囲気がある,かな.「もしもこの世界が音楽であるなら」の描写からはじまるクライマックスにはゾワゾワっときた.帯の「柴田元幸氏賞賛!」は嘘ではないな,と思った.
作中,小ネタやたとえに古今の洋楽が多く使われている.洋楽の知識はほとんどないので,曲名やアーティスト名に付箋を付けて,都度ググって BGM を流しつつ読んだのだけど,これが恐らく正解だった.今は検索すればほとんどが YouTube で見つかるんだからいい時代だよね.というか,作者の音楽への愛情が垣間見えるというか,読んでいくとそれぞれの音楽について調べたくなってしまうのよ.