バーナード・ベケット/小野田和子訳 『創世の島』 (早川書房)

創世の島

創世の島

アダムは、会話に興味がなくなったと合図するかのように、椅子にもどって本を手にした。しかし彼は自分を、あるいは相手をだまそうとしているわけではなかった。「でもおまえはただの珪素(シリコン)だ」ページをめくりながら彼はいった。
「あなたはただの炭素です」アートはめげていない。「いつから周期表が差別の基準になったのですか?」

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時期は21世紀末.少女アナクシマンドロスは,アカデミーへの入学試験である四時間の口頭試問に臨む.三人の試験官を前に,アナクシマンドロスは2058年から2077年にかけて存在した,アダム・フォードという人物をテーマにして語り始める.
ニュージーランド文学賞であるエスター・グレン賞を受賞したヤングアダルトSF.試験官との口頭試問という形式で語られる,あるユートピアディストピアではない)の未来史.二重の対話によって,心とは何か,“思考”とは何かを語り,生命の形態の可能性を示してみせる.哲学者の名前を借りて,分かりやすい言葉で新しい考え方をさらっと提示してくれる.読んでいるこちらはドキッとする.それが何度も繰り返される.どうも大きな仕掛けが隠されているらしいことは知っていたので,あれだろうかそれともこれだろうかと想像しながら読むのが,本当にわくわくして楽しかった.一種のミステリだと思って読んでみるのもいいのかもしれない.広くおすすめしたくなる理想的なヤングアダルト小説だと思う.皆も読んでみるといい.