森田季節 『不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)2』 (ガガガ文庫)

不戦無敵の影殺師 2 (ガガガ文庫)

不戦無敵の影殺師 2 (ガガガ文庫)

「別にさ、ファンを裏切れって言ってるわけじゃないよ。ただ、あまりにストイックなことばかりを冬川に期待するタイプのファンには気をつけろってこと。彼らは冬川の人生に責任を持ってくれるわけじゃないからね」
俺は蜘蛛島が自分の現役時代を思い出しながら言っているに違いないと思った。
「マニアックなことをすれば、そういうのが好きなファンはものすごく君を評価してくれるよ。だけど、それに合わせていけばいくほど、冬川は狭い方向に突き進むことになる。多数派のユーザーをどんどん切り落としていくことになる。そして、独りよがりの変なことをすることだけがとりえの奴になっちゃう」

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「異能力制限法」によって,異能力者たちはテレビの中で芸能人のように異能力を見せて金を稼ぐ存在になっていた.暗殺の異能力を代々受け継いできた冬川朱雀は,この世界に必要とされない異能力者.前回の異能力者トーナメントで優勝したことで,徐々に仕事は増えていったが,相棒の小手毬との間にズレが生じ始めていた.
「趣味で書いた」というシリーズの第二巻.敵のいない世界での異能力者のあり方を描く.冬川の仕事が増えたぶん,しみったれた感じは少し減ったけど,今回も飯を食うシーンがやたら多いのは今回も変わらず,うまそうで良い.モデルになった店の一覧を誰か作ってくれないかな.
異能力者として自分の本能を求めるか,牙を隠して社会で働き年収300万を目指すか.という作中の冬川の悩みは,ファンの求める姿と安定を目指すか,ひたすら自分の好きなものを目指すか,という表現者のそれにわりあいダイレクトにつながっているのな(上記引用も参照).現代日本のなかの異能力者のサークルに,スムースに落とし込んでいるのは見事だと思う.創作や表現に関わるひとがどういう感想を抱くのかは見てみたいな.