『アイドル』という輝きに憧れているうちに、その強すぎる光に、目を焼かれてしまった。
アイドルという存在は、僕にとって、希望であり、夢であり、そして最後には絶望を運んできた。
“完全無欠”のアイドル、瀬在麗。不祥事などで推したアイドルが次々と引退していった僕の最後の希望だ。彼女が引退するときは、僕がアイドルファンを辞めるときと決めていた。そんな麗との握手会の日の夜。僕のアパートに、麗が押しかけてきた。
「あはっ」
破顔した。
「君は本当に……理想的なアイドルファンだなぁ……」
押しかけ女房もののような導入から始まるのは、「完全無欠のアイドル」と「理想的なファン」の共犯関係。ふたりはクソッタレな業界へ闘いを挑む。
「理想的なアイドルファン」として描かれる主人公のメンタルと行動が興味深い。アイドルに夢を見て、希望を抱いては裏切られ、絶望したアイドルファンのメンタリティを、そのままのテンションで冷静に描いているというかな。実際のところはわからないけど、アイドルをアイドルたらしめるもの、ファンがアイドルに求めるものを論理的に考察している、と思う。推しアイドルが家に押しかけてきたらそうはならんやろ、と普通なら思うであろうところ、言い訳がましくないだけの説得力を持たせることに成功している。まあ正直、肌感覚はわからないのですが。アイドルファンがどう感じるかはいつか聞いてみたい。良かったです。