四季大雅 『ミリは猫の瞳のなかに住んでいる』 (電撃文庫)

「自分自身もまた、自分の魂にとっては他人なんです。わたしたちが自分だと思っているものは自分ではない。自分は自分に感情移入しているにすぎない。だからわたしにとって、柚葉先輩こそが、自分よりも自分なんです。先輩にはそういうことが完璧にわかっていたから、だからこそ、天才だったんです――」

瞳を通じて相手の過去を読み取る能力を持つ大学生、紙透窈一。大学に入ってすぐにコロナ禍に見舞われ、退屈で憂鬱な学生生活を送っていた彼は、アパートを通りかかったトラ猫の瞳を通じて、未来視を持つ少女、柚葉美里と出会う。ミリが窈一に告げたのは、衝撃的な未来の話だった。

第29回電撃小説大賞金賞受賞、猫の瞳を通じて交わされるボーイミーツガール。シェイクスピアのエピグラフと訳者による解釈の違いの講釈から始まり、コロナ禍での鬱々とした学生生活、瞳を接続する能力と未来視の少女、隣の部屋から始まる連続殺人事件、そして唐突な演劇部入部と(胸毛の)濃い演劇部員の面々。息をつかせぬジャンル不明・怒涛のボンクラ展開を、端正な文章とあふれる教養で美しく、そしてわりと力技でひとつの物語として接続した印象を受けた。いわゆるアイデアの奔流というより、濁流に近い。そういうのが。

物語のための物語という意味では『わたしはあなたの涙になりたい』と共通しているのかな。話の本筋と関係ないところでボンクラめいた人物を描きたがるのは作者のヘキなのかもしれない。そういうのも良い。書きたいことを好き勝手にハチャメチャに詰め込んで、文章力でまるで美しいものかのように仕立て上げたこの感じ、好みはあるだろうけど本当に読んでて楽しかったしわくわくした。エンターテイメントはこうでなくっちゃ。皆も二作合わせて読むといいと思います。



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