松村涼哉 『ただ、それだけでよかったんです【完全版】』 (メディアワークス文庫)

『菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない』

それが昌也の遺書だった。

十二月の急激に冷えた朝、昌也はそれだけを残して自宅で首を吊った。

十四歳の誕生日を迎えてから二週間しか経っていなかった。

男子中学生、岸谷昌也が自殺した。その背景には、被害者を含む四人への、菅原拓による壮絶なイジメがあったという。岸谷昌也の姉であるわたしは、帰省して弟の死の真相を探る。その過程でいくつもの不可解な事実が明らかになってゆく。

「教室の誰一人としてイジメの現場を見た者はいないんです」

「………え?」

秀才で人気者だった男子生徒の自殺、その原因とされた大人しく地味な生徒、誰も見たことがない「イジメ」の現場、「人間力テスト」の実施によって壊れた教室、「イジメ」につきまとうたったひとつにしてあまりに明快なタブー。すべてが噛み合ったとき、教室で進行していた「革命」が完成する。第22回電撃小説大賞大賞受賞作『ただ、それだけでよかったんです』。8年前のデビュー作に加筆修正のうえ、エピソードを追加した完全版。正直きれいさっぱり内容を忘れていたため、普通に新作を読む気持ちで読めた。

エピローグとして作中の8年後、つまり現在のエピソードが追加されたことで、現実社会との地続き感が非常に強くなっていた。この現実の裏には紙一重で地獄が確かにある。イジメに自殺と、気持ちのいい小説ではないことは承知の上で、できるだけ多くのひとに読んでほしいとも思う。デビュー作から一周して、作者の最高傑作だと思います。

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