「いや、幽霊が科学を信じていいんですか?」
「え、どうして駄目なの?」
「だって、科学は幽霊を信じてないんですよ」
と言うとハルさんは首をかしげた。「それの何が問題なのかわからない」という顔だった。
大学生の谷原豊は、曾祖母の死(享年100)をきっかけに霊媒師の鵜沼ハルと知り合う。曾祖母の友人だったという、自称大正生まれで40代にしか見えないハルは、理屈っぽくて幽霊を信じていない豊に霊媒のアルバイトを持ちかける。
幽霊と話す霊媒師のハルさんと、それをまったく信じないまま手伝いをする、他人の気持ちがわからない理系大学生。彼女はなぜこんなことをしているのか? そもそも彼女は何者なのか? その過程で明かされる街の秘密。少し不思議な、優しい出会いと別れの物語。霊媒師の謎を少しずつ描きながら、並行して「他人の気持ちがわからない」ということがどういうことかを内面から描いてゆく。なんというか、読んでいるだけで恐ろしく頭の良い作家が書いたことがわかるという、珍しい読書体験だった。
「他人の気持ちがわからない」ことを自覚しているからこそ、「他人の気持ち」を冷静に真摯に、そして理屈っぽく考察するその姿勢はとても好ましい。最終章からエピローグにかけて、しんみりさせられてしまった。夏休みに読むのにちょうどいいかもしれない。とても面白かったです。