松屋大好 『無双航路 1 転生して宇宙戦艦のAIになりました』 (レジェンドノベルス)

無双航路 1 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

無双航路 1 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

目覚めた瞬間、直径一メートル、重さ七トンの質量弾が、ぼくの第三補助エンジンを吹き飛ばした。

ぼくに刻まれたプログラムが、自動的に自動的に尾部デッキのエアロックを封鎖した。デッキ天井の端にあった百七番カメラが、めちゃくちゃに破壊されたエンジンブロックの内部映像を送ってきた。

17歳の高校生,阿佐ヶ谷真が目を覚ますと,異世界の帝国艦隊に所属する宇宙戦艦,カプリコンのAIになっていた.

AIに転生した高校生,アサガヤシンが率いるのは,連合艦隊に囲まれ,壊滅寸前の帝国艦隊.「最強の撤退戦」を描くスペース・オペラ.序盤こそ,転生もののお約束である俺TUEEEをなぞるものの,その後は「無双」というにはほど遠い展開に進んでゆく.双方に数千人単位の戦死者が出る艦隊戦.人間とAIの違い.人間だけが持つというクオリア.そもそもなぜこの異世界にアサガヤシンが転生することになったのか.

転生ものでやることに意義のあるニュー・スペース・オペラというのかな.わかるひとにはわかると思うけど,宇宙戦艦の一人称からはじまる物語の冒頭にはちょっと興奮したし,元「人間」のAIだからこそできることを描いているのは興味深い.前作にあたる『宇宙人の村へようこそ 四之村農業高校探偵部は見た!』がむちゃくちゃ面白かったので心配はしてなかったのだけど,期待以上に楽しませていただきました.



https://ncode.syosetu.com/n1880ec/ncode.syosetu.com
kanadai.hatenablog.jp

ツカサ 『お兄ちゃん……ここでなら、好きって言ってもいいんだよね?2 ケモミミ・クロニクル』 (MF文庫J)

「謝らなくていいよ。要するにお兄ちゃんは“妹のあたし”が大好き過ぎるんだよね! でも“お嫁さんのあたし”も凄いんだから! それをこれから分からせてあげるよ!」

魔竜アジ・ダハーカを倒し,真炎界に平和が訪れた.平和な世界にケモミミだけの村をつくろうとするルリ.そこに新たで厄介な試練が近づきつつあった.

狐人族(フォクシー)牛人族(ミノス)狼人族(ワーウルフ)相手の試練を乗り越えて,世界の境界にある螺旋坑(スパイラル)を目指す.ゲームクリア後に判明する異世界の真実.共通する神話体系を持っていれば,その世界は地続きにある(のかもしれない)という世界観を活かした話作りは良いと思う.ただ,それ以前の話として,ハーレムの部分が陳腐で読んでいて楽しくない.前々から思うけど,やっぱりハーレムを書くのはあまり向いてない気がするんだよなあ.



kanadai.hatenablog.jp

松山剛 『君死にたもう流星群2』 (MF文庫J)

君死にたもう流星群2 (MF文庫J)

君死にたもう流星群2 (MF文庫J)

問題は別にある。

ふしちょう。

そんな衛星あったか?

「大流星群」と呼ばれる最悪のテロが起こる8年前.テロに巻き込まれて命を落とすことになる天野河星乃を救うため,タイムトラベルをした平野大地は,自分が過去を改変したことによって親友たちの運命を変えてしまったことに気づく.

テロに巻き込まれて死ぬ少女の運命を変えるための,二回目の高校生活,第二巻.今回は宇宙成分がやや控えめ,その代わりに(?)ネット上の悪意を利用した工作,歴史改変,陰謀論といったあれやこれやがわーっと出てくる.「夢」と「宇宙」の小説と呼ぶにはかなり食い合わせの悪いテーマだと思うけど,緊張感のある物語を組み立てることに成功していると思う.なんというか,お見事.青春小説としてもSFとしても一巻から比べると格段に面白くなっていることは保証する.増え続ける謎と8年後の結末を楽しみに,追いかけようと思います.



kanadai.hatenablog.jp

北元あきの 『魔術の流儀の血風録(ノワール・ルージュ)』 (講談社ラノベ文庫)

魔術の流儀の血風録 (講談社ラノベ文庫)

魔術の流儀の血風録 (講談社ラノベ文庫)

そこには理想家のような燦燦と燃える心も、テロリストのような暗い熱情も、なにもなかった。死人のような、顔だった。

「だが、お前もこの業界で長生きすれば、そのうちにわかるさ。いやになるよ、なにもかもがな」

太平洋戦争末期の混乱に乗じて,魔術師たちの楽園――マギウス・ヘイヴンと呼ばれるようになっていた東京.様々な人種,文化,言語,魔術,そして犯罪が跋扈する東京は,特高こと特別高等魔術警察によって治安が維持されていた.〈人斬り覚馬〉こと特高魔術師の綾瀬覚馬は,その力を使って魔術師たちの犯罪に日々立ち向かっていた.

魔法と血風が煙るノワール・アクション小説.混沌とした都市で起こる16人の連続魔術師殺しが,魔術師組織の抗争に火をつける.作者はあとがきで「警察モノ」と言っているけれど,ヤクザものとか香港ノワール,あるいは幕末ものの雰囲気もあると思う.まあ,共通するところは多いんだろうが.

デビュー当時から安定感とキレのあったアクション描写は分量少なめながらますます冴えを見せる.ある種の王道を行くストーリーに,大いに華を添えていた.続きが出るのかわからないけれど,今後もゆっくりでも小説を出してってほしいなと思った次第です.

相沢沙呼 『小説の神様 あなたを読む物語(下)』 (講談社タイガ)

小説の神様 あなたを読む物語(下) (講談社タイガ)

小説の神様 あなたを読む物語(下) (講談社タイガ)

わたしは、絶対に、あなたに続きを書いてもらうから。

きっと、あなたの物語を必要とする人が、この世界にはまだまだたくさんいるはずなのだから。

『小説の神様 あなたを読む物語』の下巻.物語はひとの心を動かしたりはしない.それならば,どうしてわたしたちは物語を読むのだろう.どうして物語を書くのだろう.続編を書く意味はあるのだろうか.読者は何を考えているのか.疑問は引きも切らず,悩みは尽きない.いちおうの結論は出るけれど,それが唯一の答えかというと当然そんなこともない.今までも私小説みたいなものだったけど,これはもう半分以上ノンフィクションなのではないかな.作者自身の悩みや葛藤をそのままフィクションの姿で繋げたかのような.若書きというとおかしいけれど,一作目もあわせて,ナイーブな不器用さが愛おしくなる小説だったと思う.

「だからね、この物語を書いてくれてありがとう」



kanadai.hatenablog.jp
kanadai.hatenablog.jp