ジェイムズ・リーズナー/田村義進訳 『聞いてないとは言わせない』 (ハヤカワ文庫HM)

聞いてないとは言わせない (ハヤカワ・ミステリ文庫)

聞いてないとは言わせない (ハヤカワ・ミステリ文庫)

生まれてすぐに自分を捨てた母親に復讐するためにテキサスの片田舎を訪れたトビー.しかしそこにいた中年女は母親ではなく,消えた四十万ドルをめぐるいざこざに二人巻き込まれることとなる.
ジェイムズ・リーズナーは作家歴 25 年にしてこの作品が本邦初紹介だそうな.帯曰く「150分間一気読み! 大地と砂塵を血に染めて突っ走るノンストップ・ハイパー・ノワール」.嘘言っちゃいないけど読むのに 150 分はかからない.ヤクザものから義理と任侠を引っこ抜いたようなギラギラテカテカした即物性がウリ,かなあ.肉ばっか食ってるアメリカンの大雑把さが良くも悪くも表に出ている小説だと思う.ストーリーはあってないようなものだけどそれを気にしない潔さ,ってか開き直りがある.かといって暴力やセックスも大して凝っちゃいないんだが.
ふと思ったんだけど『ナルキッソス*1に銃とセックスと生命力を合体すればこれみたいな感じになるんじゃね? 共通するのは車でどこかへ疾走するという一点だけの連想だけど話のナンセンスさはいい勝負.片や社会や現実からの逃亡,片や金と命のために逃亡しつつも戦う.あとこちらはきわめて即物的で想像力(妄想力)の入り込む隙間がほとんど無いのも対照的だと思うんだよね.だからなんだ,と訊かれたらただの思いつきだ! と胸を張って応じる準備はある.

*1:文庫版はまだ読んでないけど