秀章 『空知らぬ虹の解放区』 (ガガガ文庫)

空知らぬ虹の解放区 (ガガガ文庫)

空知らぬ虹の解放区 (ガガガ文庫)

「葛藤している時点で自分自身がその先を望んでいるのは事実。だったら自分に素直になって開き直ればいい。その欲求は、傍から見たら確かに眉を顰められるかもしれないけれど、人様に迷惑をかけない範囲で収められるのならば断じて悪じゃあない。そして同人誌は誰を傷つけるでもない代償行為の最たるものだ。だから、心置きなく読めばいい」

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軒原拓馬は全寮制の聖ヶ原学園で厳しい取締りを行う風紀委員を務めている.校則で厳格な恋愛禁止を掲げる聖ヶ原学園だったが,その裏には,風紀委員さえ知らない同人誌密造サークルが密かに暗躍していた.
『脱兎リベンジ』(感想)でデビューした作者の二作目は痛快な「学園青春クライムアクション」.同人誌密造サークル「脳内解放区」と生真面目な風紀委員たちの戦い,そして起こる事件と,暗躍するもうひとつの勢力.良かったー.風紀委員対同人誌密造サークルからはじまる話が,非実在青少年問題や,(つい最近も Twitter で SF 系のタイムラインを賑わせていた)BL 同人誌・やおい妄想の「被害者」が誰かという問題に,びっくりするくらいダイレクトにつながってゆく.作中で起こるある「事件」の原因を,地下同人誌の氾濫からくる性風紀の乱れに押し付けようとする思考の流れが描かれるのだけど,これも非常に腑に落ちる.理屈より情の部分で,そりゃ,同人誌を禁止したくなるのも分かるよね,っていう.真犯人探しとアクションにシフトしていく後半は痛快のひとこと.一作目はやや固い感じがあったのだけど,技術的にもすごく成長しているのが分かる.
ってことで痛快な傑作でした.これは上半期のベストはもう決まりかな.皆も読んでみるといいです.