さがら総 『変態王子と笑わない猫。6』 (MF文庫J)

『君は大事なことから眼を逸らしているんじゃないかな?』
「……えっと……」
『いったいぜんたい、いつになったら、笑わない娘に大切なものを取り戻してあげるつもりなのかな?』

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年末恒例,修学旅行の季節がやってきた.横寺と一緒の班になったのは小豆梓とほんわかさまこと水泳部新部長,そして横寺を蛇蝎の如く嫌う陸上部副部長の舞牧麻衣.ひとり残され内心穏やかではない月子は思い切った行動に出る.
シリーズ六巻は修学旅行編.自分の世界が辛い,相手の世界がうらやましい.絶対に分かり合えるはずがない.そう信じるふたりの人格が,笑わない猫の力で入れ替わってしまう.誰かの世界と自分の世界とコミュニケーションと.わりとド直球のセカイ系だけど,戦わないし,借り物の言葉も使わない.過去のセカイ系を,相変わらず本心の読めない語り手(=横寺)の口を借りて,恐ろしく鮮やかな手並みで解体してくれている,ように見える.本心は読めないながら,行動は一貫したものがあり,信頼できない語り手でありながらこれ以上なく信頼できるキャラクターもいないのではないか.しかし,この辺りの微妙な感覚をアニメで表現するのは難しいのではないかなあ.期待はしたいけど付属のドラマCDは別の意味で微妙だったし…….