深沢仁 『英国幻視の少年たち5 ブラッド・オーヴァ・ウォーター』 (ポプラ文庫ピュアフル)

ランスは十秒くらいじっとしていたが、やがてかすかに首をかしげた。

「これは、ケンカ?」

俺は右手で額を押さえる。

目の前にあるのがちゃぶ台じゃなくてよかった、と思った。

馬鹿でかくて重たいテーブルじゃなかったら、ひっくり返していたにちがいない。

Amazon CAPTCHA

エドからロンドンへの引っ越しを提案されたカイ.ウィッツバリーへ残るか,ロンドンに移るか,はたまた日本へ帰るか.答えを保留し,ウィッツバリーの自宅へ戻ったカイは,いつもどおりの態度のランスとケンカになる.そこへ訪れた不穏な訪問者.

シリーズ5巻.相変わらずぼんやりとしているくせに誰よりもカイを気にかけているランス.カイの言動にやきもきするカイ.登場人物が掘り下げられるにつれて,文章表現がどんどん繊細になっていくのがたまらない.というか,なんか今までにもましてカイとランスのいちゃいちゃが加速していませんか.

静かなテキストで語られる「魂」という枷の重さにずんと来るものがある.見ている範囲ではあまり読まれている印象がないんだけど,本当に良い現代ファンタジーだと思うので,もっと読まれると良いと思うのです.