竹田人造 『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』 (ハヤカワ文庫JA)

「立場でも、善悪でも、損得でもない。僕は今、技術の話をしているんです」

五嶋はしばらく黙り込んでから、「相棒選びがピーキー過ぎたな」と小さく両手をあげて、降参のポーズを見せた。

首都圏ビッグデータ保安システム特別法の制定によって、凶悪犯罪が激減した少し先の未来。親の借金を負わされた挙げ句、ヤクザに売り飛ばされる寸前だった元人工知能エンジニアの三ノ瀬は、「フリーランスの犯罪者」を名乗る五嶋に命を救われる。三ノ瀬は五嶋に、自動運転現金輸送車の襲撃を手伝うよう持ちかける。

元人工知能エンジニアとプロ犯罪者のコンビが「最後の現金強盗」に挑む。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞。SFというよりはテクノサスペンスといったほうが個人的にはイメージに近いかな。技術的な妥当性は自分にはよくわからないのだけど、強い緊張感と古今の映画ネタを取り入れつつの軽妙なやり取りも合わせて、スピーディな展開についつい引き込まれる。物語の動機となるAI観というか、「人工知能」に対して抱くものの違いが興味深い。タイトル変更で物議を醸していたけど、結果的に正解だったと思います。