「やっぱり、女の子には敵わないな」
なごり雪のように薄い微笑みの下に、一体どれだけの諦念と悲哀と絶望が覆い隠されているのかと思うと、俺は胸が詰まった。かける言葉は、一つも見つからなかった。
遠くでセミが鳴き始める。
もう、夏だった。
高校生の紙木咲馬には、完璧な幼なじみがいた。淡麗なルックス、文武両道で人気者の槻ノ木汐。ある日、咲馬が目にしたのは、サイズの合わないセーラー服を着て、夜の公園でひとり泣きじゃくる幼なじみだった。
誰からも愛される(彼/彼女)は幼なじみに恋をしていた。携帯で赤外線通信をしたり、ブラウン管が不法投棄されてたりと、15年くらい前が舞台になるのかな。なんでこんな時代? と思ったけど、そのあとすぐにわかった。2020年前後を舞台にすると、この「空気」は意図したものにはならないのかもしれない。
――でも。
それでもさぁ。
やっぱり、気持ち悪いもんは気持ち悪いよ。
理屈ではわかっていても、感覚ではどうしようもない部分は誰にでもある、はずで、それとどう折り合いをつけるのか、あるいはつけないのか。いわゆる性同一性障害が大きなテーマにあるけど、後半を読むに、答えのない、より大きなテーマがあると見ていいのかな。あとがきによると「使用を避けている単語がある」とのこと。ライトノベルレーベルということもあって、実際のところ、書いていることよりも、書かなかったことの方が多いくらいなのかもしれない。続くとも続かないとも取れる終わり方だけど、どうなるかな。デビュー三作目ではじめてSFではない作品になるのかな。良いものでした。
