長月東葭 『貘 ―獣の夢と眠り姫―』 (ガガガ文庫)

「そう…………あなたが、わたしに、呪いをかけてくれるの」

メイアが目を閉じ、胸に手を当て、自分の鼓動を確かめる。

「なんだか不思議……チクチクしてて、ふわふわしてるわ。これ、変わった呪いなのね?」

“集合無意識の海”の実在が初めて観測されてから半世紀近く。機械の夢を介して個人の夢を共有することが可能となった社会は、覚醒現実と夢信空間、ふたつの世界を持つようになった。夢信空間のセキュリティを担う〈貘〉のひとり、瑠岬トウヤは、車椅子に乗った“魔女”と出会う。

眠り続ける姉と瓜二つの“魔女”。その正体には、ふたつの世界の真実が隠されていた。第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞の異能サイバーパンク。夢信空間は言うなら仮想空間そのものなんだけど、意図的にルビを多用した文体に、アイデアの露悪的なところや軽薄なところも含めて、正しくサイバーパンクの後裔だと感じた。設定を活かしたかっこいいアクションと、どこか懐かしさを持ちながら現代的にアップデートされたサイバーパンクを楽しむタイプの小説というのかな。「普通に素直でいい子」な“魔女”をはじめとして、キャラクターやアクションの描写も十分に魅力的だと思う。夢信空間と覚醒現実が相互に影響する例がちょっと弱い気がした、というより、この社会と世界が末端レベルでどう運用されて、住民がどう暮らしているかみたいな細かい話が個人的にもっと読みたい。今後を楽しみにしています。