澱介エイド 『SICK ―私のための怪物―』 (ガガガ文庫)

「本当の恐怖に、振り切れた感情っていうものに、道理や美学なんて存在しないんだよ」

精神に寄生し、恐怖症を増幅させる概念生命体、フォビア。ひとの精神に潜入できる異能を持つ叶音と逸流の姉弟は、すべてのフォビアを殺すことを己の使命と課していた。ふたりが身を寄せていた立仙霊能探偵事務所に、ある日ふたりの高校生が相談に訪れる。

第16回小学館ライトノベル大賞優秀賞。個々人が持つ精神の〈ゾーン〉に潜って、恐怖という寄生虫を殺す。どことなく筒井康隆の『パプリカ』を思い起こす。動画配信サービスで共有された都市伝説に殺される、というのが現代的な部分なのかな。パーツはともかく、ある宗教施設の記憶と、現在進行形の事件が並行して語られる物語の全体は素直なものだと思う。作者の好きなものというかフェチがストレートに現れた小説だと思いながら読みました。