神林長平 『機械たちの時間』 (トクマ・ノベルズ・ミオ)

火星陸軍の一等兵として無機生命体マグザットと戦闘を繰り広げてきた人間と機械のハイブリッド兵士・邑谷武.マグザットに急襲され意識を失った武が目を覚ましたとき,彼は 1986 年の地球にいた.脳内 TIP と火星の複数の記憶を持ちながら,危うい地球の日常を送る武たちハイブリッドソルジャーの戦いの物語は暴力的,かつ厭世的な雰囲気が色濃い.仕事と社会を与えられ,さらに家庭や愛するひとを与えられたとはいえそこは一時的な住まい,消えるべき疑似空間への感情移入と本来いるべき場所や仲間への思いの相克を乾いた筆致で描いている.時間と空間のあり方をスピーディかつスタイリッシュに描くことに成功している反面,未完成の印象も強いかなあ,とも.