手代木正太郎 『むしめづる姫宮さん3』 (ガガガ文庫)

「私は姫宮凪と約束がしたい」

「なん……ですか?」

私は、どこかぼんやりしていました。

「四十年後、ここでふたりでハレー彗星を観る。そういう約束。ジャコビニ流星群のようにくるかこないかわからない、そういう約束じゃない。四十年後、必ずここに戻ってくるって、そういうハレー彗星みたいな約束」

天文部に入った凪を見て、何かをしなければと美術部に入った羽汰。しかし周囲の部員に馴染めず、自主的にやりたいことも見つからない。空回りする羽汰を、震災で亡くなった小学生の頃の友人が羨ましそうに見つめていた。

震災から8年後の東北を舞台に、虫の怪異と不器用な少年少女たちの青春を描いたシリーズ、完結巻。前を向くだけで精一杯、迷って迷って逃げて逃げて、その先で手に入れたものと失ったもの、変わったもの。卑屈で傷つきたくなくて、それでも自分を諦めきれない高校生の心情を丁寧になぞっていく。

震災という外的要因で、変わってしまったものもあり、二度と変わることができなくなってしまったものもあり。良いことばかりではないし前に進んでいるとも限らないけれど、生きていればとにかく変わることができるんだ、みたいな、肩に力の入らない自然なメッセージを受け取った。とても良い青春小説だったと思います。お疲れ様でした。