そして――生まれてこのかた個人として生きてきたのに、自分を変え、世界の見え方を変えていくうちに、恋人でない誰かを唯一特別に思ってしまった、不誠実があったり。
俺たちはたぶん、小さな迷いや矛盾や不誠実を抱えながら、ときに見て見ぬ振りをしながら、少しずつ前に進んでいる。
たぶんそれが、あるがままの人間というもので。
時は三月、三年生への進級が近づき、日南葵の誕生日が近づく頃。友崎たちは日南をUSJ(アンリミテッド・スペース・ジャパン)に招待しての旅行とサプライズ誕生会を企画する。すっかり日南と話す機会がなくなってしまった友崎は、この旅行中になんとか話をしたいと考えていた。
ひとつ上の次元から世界に干渉していたパーフェクトヒロイン、日南葵。その胸の裡と、周囲に与えていた、自分でさえ気づいていなかったものについて。まず形から入るような行為でも、相手に届くものが確実にあるということ。「自分だけが特別」ではなく、「誰もが特別」でありそれが普通なのだということ。人間関係や人間の成長というものを、いろいろな機微を細やかに絡めながら、非常にポジティブなものとして描く。シリーズの特徴でもある、明快なテキストが良い方向に効いており、良かったとか面白かったよりも前に感謝のような不思議な気持ちが先に出た。終わりは何やら不穏だったけど……。続きを楽しみにしています。