「僕たちは聖職者だからね」と。確かに彼は、いつだって清潔感に満ちていた。
どんなに汚いことをしても、不思議なことにその白い法衣には、返り血一つついていない。
ずっと彼をそばで見ていて、いつの間にか僕は純白に対して、恐怖を抱くようになっていた。生きている人間が、染み一つ作らないなんて不自然だ。
白は、汚れを塗り隠すのに最も適した色。白は最も、醜い色だ。
鏡の魔女テレサリサと雪の魔女ファンネル、キャンパスフェローの女騎士ヴィクトリアは大陸最南端の港町サウロを目指して南下していた。目的は、死にかけた男を蘇らせた伝説を持つ“海の魔女”。だが、海の魔女ブルハは海賊の長として周辺の海を荒らしていた。一方、ルーシー教の九使徒も魔女の動向を受けサウロに集まりつつあった。
時は謝肉祭。ふたつの宗教の汽水域でもある港町は浮足立っていた。同時進行で描かれるのは歌とダンス、巨大なフロート車の連なるパレード、いくつもの勢力がにぎやかな街を駆け回る。これぞ、命がけのドッタンバッタン大騒ぎ。ここ数年の小説でも、アクションの描写は随一だと思う。「音楽を描きたいと思いました」というあとがきの想いは、間違いなく最高の形で果たされていた。
人魚姫をモチーフにした復讐と恋の行方と顛末、シャムス教とルーシー教という宗教、文化、死生観の違いとその汽水域にある街の緊張感、銃の量産によって絶対的な地位からあっさりと追いやられる「魔法」(こんなに容赦なく情けなく描くのがすごい)。余すところなく楽しい。作者の最高傑作になりつつある。まだ三巻だし、ここから追いかけてみるといいと思うよ。楽しかったです。