「雪降りそう」
姉が漏らしたその言葉通り、この時期に気仙沼で雪が降るのは珍しいことではなかった。そして、やはり姉の言葉通り、そんなクソ寒い日に、外に出るべきではなかったのだ。
二〇一一年三月十一日。
その日、怪物が暮らす街は跡形もなく消え去ったのだから。
環太平洋沖に現れ、世界中の海域を支配した巨大生物、レヴィアタン。通常兵器では対抗できないレヴィアタンに対抗すべく、人類はヒト型兵器《ギデオン》を生み出す。レヴィアタンに姉を奪われてから11年。高校生の善波アシトは、気仙沼でギデオンに搭乗していた。
「だとしても……国連軍は人類が団結してレヴと戦うための組織です」
「その人類の定義は、政治によって決まるんだよ」
傍若無人な怪物だった四歳児は、2011年3月11日、姉を失い、願うことを忘れて、怪物ではなくなった。ヒト型兵器に搭乗して日々海に潜り、消えた姉の遺骨を探していた少年に訪れる変化と覚醒を描く、「海と喪失を巡るロボットジュブナイル」。
【君が、救ったんだ】
たとえこの声が届かないのだとしても、伝えずにはいられなかった。
【君だけが、救ってくれたんだ】
あの日も、今日も、決して揺らぐことのない一つの事実がある。
【君は――この世界で一番の、怪物だよ】
描かれているのは、少しおかしくなってしまった世界で、大人も子供も社会も組織も形を変えながら必死に生きること、なのだと思う。「怪物」という言葉に込められたいくつもの意味を噛み締めて、冒頭のヨブ記の引用を読み返すと、こみ上げてくるものがある。久しぶりの新刊、とても良かったです。