早矢塚かつや 『死神ナッツと絶交デイズ』 (MF文庫J)

死神ナッツと絶交デイズ (MF文庫J)

死神ナッツと絶交デイズ (MF文庫J)

「ねぇ、ホロー君。女の子が男の子をプールに誘うって、すごい勇気のいることだって、そういうこと、想像したことある?」

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ナイスバディで家庭的で未来が見える少女・詩夏の世界と,ぜっこーぜっこーを連呼するケモノライクな絶交少女・夜空の世界.どちらか一方の世界しか選べないとしたら,どうする? 二人の少女,どちらかが死ななければならない世界の分岐点で,どちらも死なない選択肢を探す少年の話.
これは面白かった.観測問題を我田引水に物語に取り入れて「二つの世界」の存在意義を作り出す手法は SF 的観点からすれば強引な解釈になるんだろうけど作者なりの理屈付けはしっかりと出来ていた.きちんと考えたうえで,シンプルなルールを持った世界を作っていてぶれが無い.好感が持てる.
不器用な二人の少女とのコミュニケーションも,いかにも漫画的ではあるものの嫌味がなく読んでいるうちに自然に感情移入できた.特に会うひと会うひとにぜっこーを宣言する夜空の行動の理由付けと,それを受けてのラストの台詞がすっげー良かった.物語的には無難な「第三の選択」も,だからこそ前向きなものとして感じられて生きてくる.
荒唐無稽で都合のいい,典型的なセカイ系.でも前を向いていて,読み了わったあとにはとても爽やかな気分になれる.そんな物語でした.
『悠久展望台のカイ』の作者のデビュー二作目.長いこと音沙汰が無いと思ったら大学受験してたのね.去年の LNF で見かけたからいつか何か出すんだろうなあとは思ってた.シャイな私は話しかけることなんてとうぜん出来なかったわけで.回線の陰からエールを贈りたい.