「ならば、これでマスターは七人揃った。ユグドミレニア一族のマスターは七人、魔術協会が派遣するマスターも七人。つまり、十四騎のサーヴァントがこの世に現界するということになる。恐らく、前代未聞の規模であろうな。戦争というよりは、ここまでに至れば『大戦』と呼ぶに相応しい」
『Fate/Apocrypha Vol.1 「外典:聖杯大戦」』
「聖杯大戦、か――」
かつて,冬木の第三次聖杯戦争の際,ナチスドイツにより奪われ,その後行方のわからなくなった大聖杯があったという.ユグドミレニア一族はその大聖杯を入手.ロンドンの時計塔を離脱して,ルーマニアの小都市で聖杯戦争を行おうとする.事態を重く見た魔術協会は,聖杯戦争の「予備システム」を起動.“赤”と“黒”,七騎対七騎のサーヴァントが激突する,「聖杯大戦」が始まろうとしていた.
“赤”と“黒”に別れた14人のマスターと14騎のサーヴァントが戦端を開く.さらに現れる15人目のサーヴァント,聖杯戦争の絶対管理者「ルーラー」.東出祐一郎が描くFateシリーズの「外典」小説.バックグラウンドがしっかりしていた『Fate/Zero』と比べると,やや説明的になっている印象.まったくの新規キャラクターが多いぶん,描き分けに苦労している感はあるけど,あえてキャラクターを増やそうとしている節は見えるので,ノリノリで書いてるんだろうなあ,ということは伝わってくる.“赤”のセイバーであるモードレッド(プロローグで明かされるのでネタバレではない……はず)が「Zero」や「stay night」のセイバーと対極的な性格をしているようで,根っこは割と似ているとことか,あの人物と同じ名前を持つ謎のキャラクター,新しいサーヴァントのチョイスといったあたりにはニヤニヤできる.個人的にはホムンクルスが生まれる前に見ている世界の描写が面白かった.サイバーパンク的な意味での,もうひとつの世界に近いのかな.ただ,細やかな伏線が生かされて,作者の本領が発揮されるのは次巻以降になるだろうなあ.“黒”のセイバーとそのマスターの扱いだけはもうちょっと何とかしてほしかった.