「でね、書いてみたら、なんだかとっても楽しくなってきちゃって! 話を考えるのは大変だったけどわくわくしたし、キャラクターはみんな私の子供みたいに可愛く思えてさ!」
語る口調は、普段の院長様からは想像できないほど饒舌で、軽やかで。
「この小説の中の物事は全部私が作ったんだって、神様みたいな気分になれたんだ!」
医者の卵でクラスの高嶺の花、今上月子には秘密があった。《エロス大魔神》を自称して周囲から距離を取っていた黒松治にはある悲しい過去があった。月子は治に、「青春ができない病」を治すため、自分の小説のキャラクターをフィギュア化してほしいと依頼する。
他人をヒトとして認識できない少女に青春を取り戻すため、エロス大魔神は封印していたフィギュア制作を再開する。第30回電撃小説大賞選考委員奨励賞。創作論と「青春」を絡めた大筋は王道の青春小説に近いのだけど、美少女フィギュア、医療、創作論、ギリシャ神話に藤原道長に手塚治虫と、作中のモチーフは広範というよりは雑多といったほうが近い。説明も最低限、といっても説明不足というよりは読者へのある程度の信頼は感じられた。まあ、意味はともかくなぜそのモチーフを取ったのか、読んでてわからなくなるところも多かったのだが。
実は最後の一文をやりたかっただけなのでは……? という意味では田中啓文らしさもあるけど、なぜこの小説でそれを……? という疑問も湧く。「だから見せてね。治ちゃんの虫、治虫を!」ということなんだろうか。端的に言ってかなり変な青春小説でした。気にならないひとは気にならないのかな。
